コルカタ3日目に、思うこと。

”食事法について例えば人の食うという欲望に対する”恥”の思想が、西欧式テーブル・マナーという、喧しくてやりづらい形式を産んだとするなら、、その最も反対にある極がインド的食事法だ。デンと床に座って、同じ土間に置いた真黒な食物を、素手で貪り食う。それはちょうど、クマが食っているような感じを与える。西洋人と違って、この東洋人は食うという欲望の中で、人間のありったけを暴露するのだ。”

藤原新也 印度放浪

 

 

コルカタについて数日が経ち、僕の旅行は順調だった。今日は、3日目。渡印は二度目であったから、タクシーだの詐欺師だのやりようはわかっているし、去年と変わらず若いのだから、時間たっぷりの中、思うように過ごした。

重い荷物を背負いながら、炎天下に一日中歩き回ったりバスに乗ったり(混んでる時の西船の武蔵野線の比なんかじゃないよ)していると、いくら若い僕でも疲れてくる。疲れてくると、結構下がり目なプランを立てがちだ。結局のところ、それは大体つまらないものだし疲れてしまっては、いけないと思った。

そう思い、今日は朝起きてから午前中ずっと本を読んでいた。ルームメイトが胃でも壊したか、と聞いてきた。ドミトリーだったしエアコンはない。窓には網戸がなかった。だから、夜から朝にかけて蚊がものすごくって、これには参った。しかし2日目には蚊も風のあるところではうまく飛べないのだと知り、体に風が当たる体勢で横になっていた。丁度よく天井のファンの風が当たった。このファンは7段階で設定できるんだけど、これはMAXの7に設定されていた。だから飛行機みたいな音がして物凄くうるさい。しかし慣れた。

何の本。藤原新也の印度放浪。

藤原新也っていうと、メメントモリ。だけどこの人の文章って物凄く良いのね。

読んでいると、インド人の食事法について書いてるページがあった。上の文章。インドっていうのは食事法然り、排泄法然りその他諸々の事において西欧で言うところの恥というものが実践されているように思う。たとえば、食べ物がこう、グワァーっと運ばれてきて、それを一人だけ手で貪るようにガーッとかきこむ。これは、西洋ではありえないだろう。恥、だと言うだろう。

 

仕事をするという事について、僕はよく考えてる。就職を(3年後に)控え、それで頭がいっぱいな時がある。インド人を見てると、仕事をしてる。道を歩いてて見るのはブルーカラーの、それも超低賃金かと思われる属性の人たちだが、彼らは手を肌より更に真っ黒にして何か車の部品を組み立てているし、リキシャの運転手やバスの集金係や路上の物売りや運び屋や。皆汗だくで、それはもう汗だっくだくだ。

路上にはちょっとした菓子や飲み物、タバコにガムとかを売ってる露店が出る。Park Streetというメトロ駅を出てすぐ。そこには年齢は僕と同じか少し下くらいの男がものを売りさばいていた。僕も、水をくれ、と言って2L入った水を30ルピーで買った。クーラーボックスから取り出して、蓋のところを水で洗い流し、こちらに渡す。ものすごい笑顔で。するとまた他のやつも水をくれだのライムジュースをくれだの、あの菓子をだのタバコを一本だけだの言い始める。それにその男はハイハイと次々に商品を渡してゆくのだ。右手で商品を渡し、左手で料金を受け取る。いちいちThankyouなんて言わない。いう暇がない。彼ら客はここで必ず買う必要もないし、男も彼に必ず売る必要もないのだ。しかしここで何と無く買っておく。10歩進めば他の店があり、また10歩いくと…全く同じ品揃えといっても良い店が並ぶ。

僕は、それを見た瞬間に”これが、商売だ!!”って思った。これこそが、商売、物を売るという事だ!

 

 

インドの街中ではよく見る光景。卑しさと卑しさのぶつかり合い。店員側は少しでも高いものや利益が出やすいものを勧めるし、客は少しでも、と値引きをする。日本でこんなことやると、ちょっと卑しいと思われるだろう。旅をしていても、この日本で育つ中で培われてきた”卑しさ”に対する感情が僕の背中から、どうしても離れてくれないのだ。インドでそれがまかり通っているからって、ここの人が卑しいと思っていないわけではないかもしれない。しかし卑しいということが絶対的に悪と捕らえられてはいないようだと僕は気づき始めている。

付随してこのような商売のやり方を見ていると、やはり性善説を僕は信じてしまうのだ。インドでは皆一見、ちょっとでもぼったくろうとかちょっとでも質が悪いやすいものを高く売ろうとかしているように思える。しかし実際のところ、(性善説が施行されるための仕組みは作られているとは思うが)基本的には性善的であるように思う。多くの人間が自分にとって正しいと思うことをしている様子だ。

そういえば、今だと日本でもCashとか客を信頼してやってますみたいなアプリが出てたりしてて、ああいうビジネスモデルってこれから、かなりいけると思う。