talking to vegetables

さて、季節は気付かないうちに過ぎてくもので、今年もこういつの間にか、11月が終わろうとしてやっと気づくのだ。蝉の声がしなくなって、木々が赤くなっていって、街行く人々が厚い外套を着込む様になってきて。あれ、もう今年も終わりじゃないの!

僕は夏終わりから京北に農地を借りて、野菜や果物を育てている。市内から車で30分くらいの山奥。そこで沢山の種を蒔いた。着色されてカラフルになった種はほとんど全てが丸く同じ形をしているが、種蒔きをして1週間と経たぬうちにそれぞれの野菜を想像させる若い芽を出す。僕は都会ってこともなかったが、畑に囲まれた様な田舎の出じゃないから、こうやって植物の誕生を近くで見守るのは初めてのことだった。だからこうしてきちんと芽が出ることや、雨が降った翌日は生き生きとすること、日差しが強い日には太陽が眩しすぎるよー、台風の翌日には、昨日は風が強くて大変だったよォと、植物は話すことを知らずに(こんなこと本当に知らなかったんだなぁ)生きてきた。僕は半日も彼らとずっと話すことがあるが、その中で彼らは季節にとても敏感でいることに気づく。農学部でもない学生が畑で独り言を言い続けているのは殆どイカれているように思うが、実際小学生かそのくらいの子と、はんぺんやちくわがそのまま海で泳いでいるっていう話を熱心にすることが出来るくらいにイカれてきている気がする。しかし、かねてから季節に敏感にいたいと僕は思っていたので、そんな野菜たちの、自然の中で生きていくことの正しさっていうかな、まともさというか、そういったものに小さな憧れみたいなものを見出したりするのだ。どうも、季節に敏感にありたいと思いながら文化の中で或いは都会的な趣味を通して季節感を感じ取ろうとすることは、あまりしっくりこない時がある。何かもっと自然的な体験でなければならない様に思うのだ。もっとも野菜たちに足が生えていて歩けるのであれば寒かったり風が強かったりすれば畑から小屋の中に避難してしまうだろうが、或いはこたつに入ってテレビを見ながら冬を越す可能性すらあるが、雨風に耐えた野菜は逞しく見えるものである。

 畑から国道に出てまっすぐの道をひたすら北に十キロ行くと乗馬場があって、そこに行っては馬糞を土嚢袋に詰めて持ち帰ってくる。馬は草食でアルファルファとか藁を主に食べているから、馬糞は嫌な匂いはそれほどしない。それを3ヶ月、4ヶ月と置いておくと次第に分解されていって、半年近く経つとすっかり土の匂いがする様になる。土の匂い、なんていい匂いなんだろう。ふわっと匂う土の匂いはその上で寝たくなるくらいにいい香りがする。僕は堆肥となった馬糞を掘って(それは僕の背丈の3倍くらいの山になって積まれているのだ)匂ってはよくそう思う。それから近くにある精米所で籾殻を貰って袋に詰めて車に積むと僕の車はまるでカリオストロの城フィアット500の様な詰め込み具合になって、気持ち加速が鈍くなる。加速が穏やかになることは、僕は嫌いではない。ローからセカンドへギアチェンジしながらゆっくりとこれからなにをするか、何処へ行くかよく考えることが出来る。その足で苗店を覗いてみたり、直売所で植えるための面白い野菜を探したりしながら畑へと戻ってくる。物凄い数の土嚢袋を畑に巻く作業、これがまた堪える。畑に袋を運ぶだけで腰がまず痛くなって、くわで畑に漉き込んでいると次第に足からふくらはぎにかけて疲れがどっとくる。それでも土を起こすという行為が僕は好きだ。何はともあれ。

 日没近くなって西の地平線に近い空が赤くなってくるまで、僕は畑に居続けた。どんどんと辺りが暗くなって、街灯がぽつぽつとついていって、市内のことを思った。あと一列、畝をあげて帰ろうと思ったけれど、帰って一体どうするのだろう、というか僕はここで何をしているんだろうという気持ちになってしまって、がむしゃらにそれから残りの畝を全て上げ終えてから車に戻った。国道へ出ると僕は前の車のテールランプをただ眺めながらアクセルを踏んで、無気力になってしまった。そんな風にしていると、いつの間にか市内とは逆の方向へと来ていて僕は、そうだと思ってR477をひたすら東へ向かった。uri gagarnのForをかけて久々に買ったパーラメントを吸ってみた。なかなか、いい味だと思った、というよりもそんなに悪くなかった。でも昔みたいな味はしなかった。その時僕はとてつもない孤独を感じた。大学を中退した先輩がこれについてよく話した。孤独、ポツポツと遠くに民家の小さな明かりが灯っているのが小雨で濡れたフロントガラスに反射して映った。僕の吐いた煙がそれに当たって跳ね返って渦を巻いた。何も交わる事のないずっと続く国道。こんなに薄暗い気持ちで酷い孤独を感じるのは久しぶりの事だった。2、3本で百井峠に差し掛かかって、ぼーっとしている間に百井別れを僕は完全にスルーした。そのお陰で湖西道路でも通って帰ろうと朧げに描いていた僕のルートは消え去り、気がつくと鞍馬で、あたりは暗くなっていたがたくさんの観光客で溢れていた。僕はなんだかよくわからないけれど、うんざりしてしまってMKに寄って20球打ちっぱなしをして、それから帰った。2、3球いい当たりがあったくらいで他はロクなバッティングではなかった。どうしようもなかった。何をしているんだろう。これも、また野菜君達に話してみることにしよう。ねえ、僕ってどうしたらいいのかなwって。